市川カニ蔵さんの『Eternal Time』を理論的に紐解きカニ蔵さん作風を学ぼう②
どうも僕です。
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前回に引き続きEternal Time_ver1を解析してみましょう。
今回は様々な音のフレーズについて理論的に紐解いてみましょう。
楽曲を印象づけるシンセサイザーのサウンド
上の画像はイントロの音程です。
水色のノートがピアノのコード。紫色のノートがシンセの音です。
ピアノ、キック、スネアと共に聴いてみましょう。楽曲のシンセのように音をいじってみました。
符点八分が基本のフレーズでソの音では裏で鳴っているというのがポイントでしょうか。メロディはピアノですが、このシンセもしっかりと目立っています。
最後は途中で音を止めることでメリハリを付けていますね。
段々と音が変化するシンセの音。これはカットオフが徐々に開いているため、このような音となります。フィルターを使ったテクニックですね。
GMのMIDIを読み込むとCubaseの場合HALion Sonic SEが割り当てられるため、今回はHALion Sonic SEをカットオフをオートメーションを使って徐々にフィルターが開くようにしました。
↑Cutoffをオートメーションで動かすGIF
少しレゾナンスを上げることで派手なより良いサウンドになります。
次はこのイントロのシンセサイザーの音程について重要な点があります。
B→C→G という音程の移動の仕方。特にBの音程がポイントです。
シンセの音程がBの時のコードはFM7とAm7です。
つまりこのBの音程というのは、
コードトーンではないテンションの音程ということです。
しかし、Bの後にコードトーンであるCの音に移るため、一瞬の緊張感、オシャレ感を演出出来ます。もし最初の音程がコードトーンのAである場合、このEternal Timeは全く違う印象となっていたはずです。
全然違いますね。
VIIの音程から始まるフレーズってほとんどないので、Eternal Timeらしいフレーズといえますよね。
シンセが使われているのはイントロだけではなく音源の58秒からでも使われています。
実際に原曲の方の音源を聴いてもらうと、スタッカートのストリングスの音のほうが大きくメロディではあるものの後ろの方から鳴っているような感じです。
そしてまたしてもB→C→Gという動きが基本となっていますが、フレージングはイントロとは異なり、2小節に渡っていたフレーズを1小節にまとめたような物となっています。また、イントロと比べると1オクターブ高いです。
フレーズこそ違うものの、聞き覚えのある音程を使用することでEternal Timeのシンセサイザー音をリスナーの耳に強く残す事ができます。そしてイントロ同様テンションの音が含まれているのもポイントです。
さらに細かくこのフレーズを紐解きましょう。
EからBへ完全5度の跳躍からこのフレーズは始まります。
5度や6度の跳躍は聴きやすく高揚感があります。
このようなフレーズの始まりに使うのは有効的です。歌もののメロディもサビ入りは、同じような音の跳躍があります。
4小節目でフレーズが変わるもののEの音に着地するため、綺麗にループできていますね。
最後は経過音を使って、今度はオクターブ上のEに着地します。
ある和音構成音から、別の和音構成音へ、順次進行でつなぐときに、間にはいる非和声音)を「経過音」と呼びます。
派手に音を動かさないことでトランスらしさを作り上げていますね。
シンフォニックなストリングスサウンド
音を埋めるストリングス
黄色の音程がストリングスです。音を埋めるように入っていますね。
ルートと5度で鳴らしています。エレキギターのバッキングでよく使われるパワーコードの構成音ですね。
ストリングスをパワーコードで鳴らすというのはあまり好ましくありません。
広いレンジを使うことでより綺麗な響きを生み出すことが出来ます。
分かりやすく打ち込むとこんな感じです。パッドやストリングスはオープンボイシングで打ち込むと良いでしょう。
Am7→Em7の部分ではコードが変わっても音程が変わっていない部分(EとA)は音を伸ばしています。これもポイントです。
Eternal Timeのストリングスを実際にこれに置き換えると、他の音程と被ってしまったりメロディが薄れてしまう可能性もありますが、このほうが響きは良いです。
対位法を意識するともっと綺麗な響きになります。
スタッカートのフレーズ
58秒からのシンセが入る所ですが、シンセはミュートしています。
シンプルですね。オクターブで重ねることで厚みを出しています。
また、裏で鳴らすことでリズミカルな楽曲に仕上げていますね。
ちなみにGはFM7に対して9thの音程。サブドミナントの9thはよく使われます。テンションから入ることでより美しいストリングスとなっています。
厳かな雰囲気を醸し出すクワイア
黄色のノートがクワイアです。カニ蔵さんが大好きなオムニスフィアクワイアです。
残念ながらオムニスフィアは持っていないのでHALion Sonic SEのクワイアで音源を聞いてもらいましょう。と言いたかったのですがHALion Sonc SEのクワイアで良い音がなかったのでSampletank3の音をレイヤーさせました。
スタッカートのストリングスが鳴り、シンセも鳴っている中、クワイアも鳴っているんですね。ピアノトランスなのにピアノが薄れている部分にクワイアが入ってきます。
後半にもクワイアが入ってきますが同じフレーズです。
コードトーンを中心に、他の音を邪魔しないような音程です。シンセやストリングスがテンションの音程で鳴っているため、クワイアの音程はあまり冒険をしていませんね。
しかしこのクワイアこそカニ蔵サウンドの代名詞であり、これを入れなければカニ蔵さん風の楽曲を作ることは出来ません。
もしクワイアの音源を持っていない場合はNuclear Liteという無料の音源で鳴らしましょう。ゴスペル風のクワイアがあります。ただ…10GB超えの音源です。
工夫たっぷりピアノアルペジオ
FM7 G Am7 Am7の部分のアルペジオ。
FM7 G Am7 Em7の部分のアルペジオ。
この2のフレーズですが最後はコードの違いだけで鳴らし方は基本的に同じですね。
9thのテンションノートが入っていることに注目しましょう。
Em7を除いてコードに9thの音程が入っていますね。
このアルペジオだけ見るとコード進行はFadd9 Gadd9 Amadd9 Em7とも捉えられます。
今回はここまで!次回はピアノのメロディとベースを紐解いていきましょう。
市川カニ蔵さんの『Eternal Time』を理論的に紐解きカニ蔵さん作風を学ぼう①
どうも僕です。
あまりにもマニアックな内容なので新ブログを作りました。
市川カニ蔵さんの曲を聴いているそこのDTMer!カニ蔵さんの曲ってどういう風に作られているの?ということを理論的に紐解きカニ蔵さん技術を盗んでみましょう!
なおEternal Timeにはver2がありますが、ver1のMIDIしか持っていないのでver1のMIDIを元に解説します。
また、音楽理論についてはめちゃくちゃ詳しいわけではありません。かなり身内向けブログではありますが間違いがあれば指摘をお願いします。
Eternal Timeのコード進行とは?
上記TmBoxの音源の~30秒までやサビにあたる部分のコード進行を確認しましょう。
なおこの楽曲のキーはCです。
FM7 G Am7 Em7(繰り返し)
ディグリーネームだと
IV△7 V VIm7 IIIm7
4563ですね。王道進行FM7 G7 Em7 Amにも似ています。
このコード進行について注意すべき点が2つあります。
Gだけ三和音にしている
なぜGだけ三和音なのでしょうか?他が四和音のためFM7 G7 Am7 Em7としても良い気がしますが…。
G7というのはメジャーセブンスでもマイナーセブンスでもないセブンスコードです。
このセブンスコードというのは不協和音のコードなんですよね。G7の場合シとファが増五度(減五度)の関係だからです。増五度とか分からない?分からなくても大丈夫です!セブンスは不協和音のコードです。
不協和音だからといって悪いコードではありません。よく使われます。ただしこのEternal TimeではGであるということ。カニ蔵さんは意図的ではないと思いますが、G7というのは癖が強い響き。もしG7にしてしまった場合トランスのようなサウンドからは遠ざかってしまうでしょう。
ではFM7 G Am7 Em7とFM7 G7 Am7 Em7を聴いてみましょう。
G7のほうが感情に訴えかけるような泣きの響きですよね。これはバラード感が出てしまいますね。
最後はEm7
最後Em7にすることによって少しふわっとしたような感じになります。
FM7 G Am7はサブドミナント→ドミナント→トニックという強進行で形成された綺麗なカデンツの形ですよね。
しかし最後のEm7はドミナントです(トニックでもあるがAm7から続く音として考えるとドミナントとしても響きと捉えやすい)。トニックからドミナントは弱進行のため最後のEm7で少し拍子抜けするような感じがあるかもしれません。
ですが、これは繰り返される循環コード進行です。Em7からFM7へは綺麗に繋がりますね。
もし聞き手をぐっと引きつけるならEm7ではなくE7にするという手もありますが、トランスというジャンルを考えるとふさわしくないかもしれません。
その他は全て
FM7 G Am7 Am7(繰り返し)
ディグリーネームだと
IV△7 V VIm7 VIm7
先ほどのEm7がAm7に変わった形ですね。王道的でアニソンなんかだと頻繁に現れるコード進行の1つ。カニ蔵さんやカニ蔵さんの師匠であるNekodarumaさんも456の進行を好みます。このコード進行を使えばカニ蔵さんっぽくなると言っても過言ではありません。
Gが三和音というのは先ほど解説した通りです。
トニックを二小節続ける安定した響き
Am7が2小節続いていますね。Em7が現れるよりもはっきりとした印象に残りやすいコード進行です。使いやすくメロディが付けやすいというのもポイントです。
王道進行よりもあっさりとしていてどんなジャンルにも使えますが、ありきたりな感じになりやすいという点に注意。このコード進行を用いるのであればアレンジ力が試されるでしょう。
ドラムのフレーズ
ピアノ入りのドラムフレーズを聴いてみましょう。
勢いをつけるクラップとスネア
基本的には四つ打ちです。初めはクラップがたくさん鳴っていますね。楽曲を聴いてもらうと微かに鳴っているような感じです。
しかしスネアのリズムも変わっていることが分かります。これも楽曲に勢い付けをする効果があるでしょう。
連打のキック
そして四つ打ちですが、キックの連打が入りますね。ダンスミュージックではよくあるキックの連打ですが、この曲では2拍の間だけ連打させています。これは他のダンスミュージックで見られる徐々に早くしていって高揚感を高めるものではなく、音を埋める役割かもしれません。
実際キックが連打されているところでは他の音が鳴らない状態であることが多いです。
パターンが変わるハイハット
クローズとオープンを交互に繰り返す8ビートの部分と、クローズを連続で鳴らす16ビートの部分があります。
16ビートの部分は音数が少ないところで用いられ、楽曲を飽きさせない構成になっています。
通常トランスでこのようなフレーズの変化というのはあまりありませんが、ピアノトランスならではといったところでしょう。
というわけで今回はこの辺で。次回は更に様々な音を解析してみましょう。